伊原木(いばらき)くんはとてもかわいそうな人なのだ。
自分に寄せられる好意を無下にはできない。来るものは拒めない。もとい、女の子の誘いはどうしても断れない。


決して浮気性なんじゃない。
かわいそうなくらい、哀れな人なのだ。





「凛子ちゃん〜!」

夜中の0時過ぎ。ベッドの中で熟睡中、背後から抱きつかれた衝撃で目が覚める――や否や、強烈な香水の匂いが鼻孔を抜けて寝起きの脳に直撃した。

「うっ、え、ごほっ……」

「凛子ちゃんごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

あまりの激臭にむせる私を布団ごとぎゅうぎゅう抱きしめながらひたすら謝ってくるのは、同棲中の彼氏、伊原木くん。


ごめんなさいごめんなさい。本当にごめんなさい。……彼がこんなに必死になって私に謝ることといえばひとつしかない。
私はため息をついて、彼の拘束を緩めながら起き上がった。

腰にしがみついたまま涙目になって私を見上げてくる彼の頬が、どことなく赤くなっている。


「凛子ちゃんごめん、おれまた、」

「……なんかほっぺ腫れてない?」

「……付き合ってって言われたから、彼女いるって言ったら、ぶたれた」