「…231円」
あくまで面倒臭そうに、コチラを見ようともせず金額のみ告げられた。
定価な上にきっちり消費税もとりやがって。
ぴったりの小銭をカウンターがわりの棚に置くと、金歯女は無言で旧式のレジに小銭をしまって、さっさと体の向きを変えた。
優しい会話の糸口など全くなさそうだ。
勝手な苛立ちが上塗りされてゆく。
だいたい、少しくらい見慣れない客に関心とか持てないわけ?
─ちょっと、おばさん!
座敷に戻りかけた金歯女が面倒臭そうに振り向いた。
─……あ、や、その。
…この牛乳もちょうだい。
つい苛立ち任せに呼び止めたものの、すぐに怯んでしまった。
何にクレームつけようとしてるんだアタシは。
バカじゃないの。
時代錯誤な金歯は懐かしいどころかコミカルなだけじゃないか。
見知らぬ老婆との優しい会話に何かを見出すなんて出来事は、ドラマの中にしか存在しないのだ。

