カウント・ダウン



とりあえず南に下る電車に乗る。
適当に山間あたりで降りよう。

目的は泣く事、きっかけは道中で見つかるだろう。


昼前の中途半端な時間帯の車内は気だるくて生暖かい。人もまばらだ。
感傷に浸るにはもってこい。

いくつもの駅を過ぎ、流れる景色の中から高い建物が減って緑が増えてくる。

畑、田んぼ、畑。
最後にいも掘りしたのはいつだっけ?
いちご狩りをしたのは…

ノスタルジーに浸りかけた頃、耳障りな音が隣から聞こえてきた。


一体いつの間に乗って来て隣に座ったのか、だらしなく着崩した若い男のイヤホンから音楽が漏れている。

…しかもアタシの好きな曲じゃないか。

無性に苛立ち、一気に冷める。
ノスタルジーな想い出はもう思考から消えて帰ってきそうに無い。

車窓から流れる景色に想い出を馳せて涙する、なんてドラマの中にしかないのかもしれない。