屋上での出来事以来、私は不調を感じていた。
あの日、黒谷の強い念をまともに受けてしまってから、体も力もおかしい。

それは、ほんの些細な事だった。

今までは、心を平静に保ち、感情に荒波を立てなければ力は制御できていた。
それが、少しずつ崩れ始めていたんだ。

例えば、教室の扉を開けた時。
例えば、テスト用紙を返してもらった時。
例えば、誰かにほんの少しでも触れてしまった時。

そこから、心の声が流れ込んでくる。

そうなってしまうのは、力を制御できていないからだろう。
気付かぬうちに、私は読み取る力を解放してしまっているみたいだった。

流れ込んでくる他人の意識は、偏頭痛のような痛みを身体へもたらしていた。
鈍く、重く。
ズキズキと頭へ痛みをもたらす。

何故こんな風になってしまったのか。
知りたくもない他人の意識が、脳内へと流れ込んでくる。

悲しみ、苦しみ、妬み、恨み……。

気がつけば、そんな感情に脳内が支配されて、まるで自分の事のようにその感情に心が左右されていた。

その都度、ハッとして現実にいる自分を確認する。
自分じゃない意識と、自分の意識を入れ替える。

そうして、いつの間にか解放していた力と、制御できていない自分自身にうなだれる。

どうして?
自分のことだけでも精一杯なのに。

人の念なんて、感じたくない。
心の声なんて、聞きたくない。

自分の感情じゃないものに振り回されて、胸が苦しい。

それと同じようにして、体調も崩れていった。

頭痛の間隔は狭まり、痛みは強く、時々、眩暈さえ起こしてしまう。

その度に陸は私へと手を差し伸べ、心配そうに声を掛けてくれる。
私が苦しいと、自分も苦しいのだ。というように表情を曇らせる。

陸に心配をかけたくない。
でも、どうしたらいいのか少しも分らない。

お祖母ちゃん、助けて……。