「…返してくれるか」

猿は少し俯いてポツリと呟いた。






んん??猿??


何か、昨日までの生意気な口調じゃないから、…不気味…。

何で今日はこんなに大人しいわけ?



「…1つ聞いてもいい?」

「……」

「この手帳の子、アンタの妹か何かなの?」

「…!」


あたしがその質問をした途端、猿の表情が変わった。


何だか図星をつかれたように、目線を左右にちらつかせる。




「…何で、そんなことお前に言わなきゃいけないんだよ!」

猿は顔を赤らめて声を荒げる。


…明らかに動揺してる…。



何かあるな、と踏んだあたしは


「言ってくれなきゃ、返してあげなーい」

「…!」


ポケットから取り出した手帳をヒラヒラと振ってみせた。

手帳の動きに合わせて猿の目もキョロキョロと動いた。




もちろんこの少女は見たことないし、はっきり言ってどうでも良い。

でもクソ生意気なこいつが何でこの手帳を大事に持ってるのか気になる。

物とか大事にしなさそうだもんね。


今だって悔しそうにあたしのこと睨んでるし。




あたしはこいつの弱みを握ったんだ。




「あたしはどっちでもいいんだけど〜?」

あたしは猿を挑発するように言った。


何か奴の弱みを握ったと思うと今までのストレスが一気に発散した。

だって今までブスだの化粧がどうのとかペチャパイだとか散々言われたんだよ、コイツに!


なのに、今じゃ形勢逆転!!


理由は知らないけど、こいつは手帳を返して欲しいが為にあたしの言う事を聞くしかないわけだ。

何て気分がいいんだろう!




猿はしばらくあたしのことを睨んでいたけど、観念したのか、ふぅ、と肩の力を抜いた。


「…ったく。…分かったよ、言うから返せよ」

猿は渋々承諾した。