キミの笑顔の理由になりたい

 
美千子さんに言われて3人の女性は慌ててトイレから去ってしまった。



「さて、と…冬祢ちゃん?」



美千子さんに呼ばれてビクッと肩を跳ねさせた。

どうして私がここにいるのがわかったのかと考えていると、美千子さんの履いている靴のヒールの音だろうか、カツンカツンと音が響く。

コンコンコン、と私が入っている個室のドアがノックされた。すぐわかるわな、ドア閉まってんのココだけだし。



「冬祢ちゃん、出ておいで」



さっきの人たちはもういないし、大丈夫だと美千子さんが言うけど泣いてボロボロになっているであろう今の私を見られたくなくて、ドアを開けることができなかった。



「冬祢ちゃん、お昼美味しいパスタ食べに行かない?」



この近くに美味しいイタリア料理を出すお店があると美千子さんは言うけど…



「私……パスタきらいです」



うどんとラーメンは好きだけど、固い麺が嫌いな私はアルデンテが一番美味しいと言われるパスタが嫌いである。



「パスタが嫌いなんて珍しいわね…じゃあハンバーグ食べに行く?」



確かにパスタが嫌いな人ってそうそういないだろう。

美千子さんはパスタがダメならとハンバーグを提案してきた。ハンバーグは一番好きな料理だ。



「テレビで紹介されたところですごく美味しいのよ」



そう言われると、お腹が空腹を訴えるようにぐーっと小さく鳴った。

誰もいないトイレにはその小さな音すら反響させて恥ずかしかったけど、美千子さんは優しく笑って相当ハンバーグが好きなのねと、バカにすることはなかった。

ハンバーグを食べに行くことになったから、私はドアを開けて目の前に立っていた美千子さんを不安げに見上げた。

美千子さんはただ優しい笑みを浮かべて頭を撫でてくれた。



「行きましょうか。漆斗くんも心配してたし」



そういえばそうだったと思い出して、須賀さん怒らないだろうかと不安になってきた。

美千子さんの影に隠れながらルーメンの楽屋に戻ってきた。

楽屋には須賀さんがいた。



「冬祢ちゃん!」



すごく心配させてしまったのだろうか…須賀さんは私を見るなり駆け寄ってきて気分でも悪くなったのかと聞いてきた。

気分が悪くなった訳じゃない。と首を横に振る。



「気分が悪い訳じゃないんだね?」

「…うん」

「そっか…もう少しかかるからここで待ってって」



須賀さんが確認するようにもう一度聞いてきて、私はただ頷くことしかできなかったけど、須賀さんはそれ以上のことは聞かずこの楽屋で待っていてほしいと言って収録に戻ってしまった。