キミの笑顔の理由になりたい

 
ガチャリ、と電話を取ったときのような音が聞こえて一瞬ビクッと肩が跳ねる。

次いで真っ暗だった画面に、一人の男性が映った。



『あ、すいません。時宮春陽さんに言われて伺ったものですけど…』



ようやく私が出てくれたことに安心したのか、男性は柔らかい笑みを浮かべながらお母さんに言われて来たと言う。

お母さんの名前は春陽。

名前の通り暖かい感じの人だ。

お母さんの名前が出たと言うことはこの人がついさっき言っていた派遣された人なんだろう。

追い返すこともできない私はエントランスのドアを開けるために解除ボタンを押した。



「…どうぞ」



はっきり言って入れたくなけれど、お母さんは私を心配している。

お母さんの気持ちを無下にはできないってのもあるけど…帰ってくださいとハッキリものを言えない性格だから追い返せないだけなのだけど…。

それにしても、ドアホンに映っていた人…なんか見たことある気がする。

どこで見たことあったかなと考えつつ玄関の鍵を開けるため玄関に向かう。

二つある鍵と、防犯用に付け加えた鍵と、チェーンを外しているうちに派遣された人が来たようで、コンコンコンとドアがノックされた。

ドアを開けたらさっきの人がそこにいると思うだけで心臓が早鐘を打って緊張する。

腹をくくれ時宮 冬祢!

やけくそ気味にドアを開ければ、さっきのドアホンに映る人じゃなくて、人の良さそうな顔をしたスーツを着たおっさんが立っていた。

ポカンとそのおっさんを見上げて、気づいた。

押し売りセールスか何か、だと。

半分開けていたドアを急いで閉めようとしたけど、ガッとドアを掴まれて、さらに足でそれ以上閉められないように止められた。



「おはようございます~。別に怪しい者じゃないですよ?
今日はお母さんはいないのかな?」



人の良さそうな笑みを浮かべているが、このおっさんなんか危ない。

そう言えば回覧板に…最近不審者がいるからご注意してくださいって書いてあったような…まさかこのおっさんだろうか…。



「実は今、無料で…」

「か、帰ってください!」



出せる限りの力でドアを閉めようとするけど、引きこもりの私はそんなに力がないから男の力に敵うわけがない。

怖い…怖い怖いっ。

目頭が熱くなってじわりと涙がにじみ出てきたとき、ドアを閉めさせないようにしていたおっさんの力がなくなった。

俯いていた私はドアを止めるおっさんの足もなくなったことに気づいて顔をあげたら、ドアホンに映っていた男性が、おっさんをドアから引き剥がしてくれていた。