キミの笑顔の理由になりたい

 
キッチンに行きさて何を食べようかと冷蔵庫を開ける。

不摂生な生活をしているせいかあまりご飯を食べない私と、あまり家に帰ってこないお母さんの二人だけだからこれと言った食材がない。

食パン焼いて、バター塗って砂糖塗った激甘食パンでも食べよう、と決めて早速食パンを焼く。

それにしても…食材がないのは非常にマズイ。

カップラーメンもないみたいだし…今日の晩ごはんをどうしよう。

あまり行きたくないけど…買い物に行かなければならない。

ほんと行きたくないわ…。

チン、とパンが焼けたと言うように鳴ったトースター。

いい色に焼けた食パンを手に取りバター塗って砂糖も塗って一口食べる。

うん、甘くて美味しい。

ミルクと砂糖を多目に入れたコーヒーを飲んで朝ごはんは終了。

行きたくないけど買い物に行かなければならない。

着替えようと思いお皿やマグカップをシンクに持っていくと、ピンポーンと来客を知らせるインターホンが鳴った。

こんな朝早くからなんだろうか?

回覧板…なわけないか、一昨日回したばっかりだし。

かといって宅配だろうか?いや、宅配ならお母さんから電話が来るし違う。

なら、押し売りセールスだろうか?

あぁ、嫌だ。そう言うのと関わりたくない。というか会いたくない。

けれど、お母さんのお客さんかもしれないし…ないか。お母さんの客なら事務所行くでしょ。

誰が来たのかと色々考えているうちにまたピンポーンとインターホンが鳴った。

出るべきだろうか?私は出たくない。

よし、居留守を使おう。

そう決めた瞬間だった。私のスマホが着信を知らせるように鳴った。

着信音はアニメの主題歌で、滅多に着信音は鳴らないからビックリした。

誰からだろうと見てみるとお母さんからだった。



「…もしもし?」

『あ、冬ちゃん?起きてたの?珍しいこともあるわねぇ』

「あ、うん…」

『突然なんだけど、お母さん海外に行くことになっちゃって…その間冬ちゃん日本にひとりでしょ?
だ・か・ら…冬ちゃんの面倒見てくれる子、派遣しといたわ』



何故だろう、お母さんの語尾にハートが飛んでいるように感じた。



「え?ちょ、それって…」

『多分、今お客さん来ているんじゃない?ちゃんとお家に入れてあげるのよ』



じゃあね、と言ってお母さんは電話を切った。

ツーツー…と通話が切られた音が鳴るけれど、そんなことよりも私はお母さんが言ったことを考えていた。

お母さんはしばらく海外に行く。それは仕事上仕方ないことなのだろう。

その間私はひとり、それを心配したお母さんは面倒を見てくれる人を派遣したと言っていた。

それはつまり…他人が来るということ。

そしてその他人は今もピンポーンとインターホンを鳴らしている人物、かもしれない。

バクバクと心臓が早鐘を打っている。

たらりと、冷や汗が頬を滑る。

ドアホンを見ても誰が来たかはまだわからない。

通話ボタン押さない限り画面は真っ暗なままだから当たり前だけど。

ゴクリと生唾を飲み込んで、勇気を振り絞って通話ボタンに指を伸ばした。

指がボタンに触れて、少し力を入れればエントランスにいる人が映る。

大丈夫、あっちにはこちらは見えないからどんな顔をしていても大丈夫…。

そう自分に言い聞かせて、深呼吸を一回してボタンを押した。