コップは須賀さんが片付けてくれて、私は珍しく早くにベッドに入った。

いつもはネットサーフィンするかゲームをするかで徹夜ばかりだったのに、今日は0時になる前にベッドに入った。

きっと朝早く起きて、突然アイドルと同居することになって疲れているんだろうと思った。

だからその日は、早く眠りに就いた。
















キャー、と黄色い歓声が聞こえる。

視線の先には5人の人が大きく手を振っている。

手を振られればさらに歓声は大きくなり、私はその中でただ5人を見上げていた。

あぁ、キラキラと輝いて眩しい…

なんて、遠い存在なんだろう…。

私は何となく手を伸ばしてみた。

届くはずないのに、手を伸ばしたらなんだか届きそうな気がして、そんなのあり得ないのに…。

手を伸ばして、届かないなら伸ばしても意味がない。

伸ばした手を下ろそうとしたとき、腕を引っ張られた。



「冬祢ちゃん」

「え…須賀、さん?」



さっきまで大きな歓声の中にいたはずなのに、いつのまにか自分の部屋にいた。

いつも締め切っているカーテンは開けられていて、久しぶりに部屋に自然の光が入っている。

私の部屋はこんなに明るかったっけ?と思い呆然としていたら、ベッドの縁に腰かけてこちらを見ている須賀さんがもう一度私の名前を呼んだ。



「冬祢ちゃん、寝ぼけているの?可愛いね」

「…あ、の」



あれ?部屋には入らないでほしいと言ったはずなんだけどなんでこの人がいるんだ?

あれ?気のせいだろうか、須賀さんの顔がだんだん近づいて…



「寝坊助さんには王子さまのキスが必要かな?」



世の女性が見れば卒倒しそうな妖艶な雰囲気でそう言う須賀さんの唇が近づいてきて…









「うぎゃぁあああああ!!!!」



悲鳴をあげて飛び起きた。



「ハァハァ…はっ!夢か…」



飛び起きた私は薄暗い己の部屋を見てさっきのが夢だと確信できた。

私が部屋のカーテン開けるなんて…大掃除以外あり得ない。

なんとも変な夢を見てしまったと自分自身に嫌悪感を抱いた。

夢って深層心理を見せるとか聞いたことあるようなないような…まぁ私の知識は大体テレビや漫画の受け売りだけど…。

そういえば何時だろうかとスマホを見ようとしたら、部屋のドアがノックというにはあまりにも激しい音で叩かれた。



「冬祢ちゃん!どうしたの?」



夢の中であんたに唇奪われそうだったんですよ。とは言えるわけない。

改めてスマホを見れば、すでに9時を過ぎていた。