「どれだ!?」

飛鳥の持っている紙を凝視する。それは、僕が高一の頃に書いたミステリー小説「サイコパス」だった。

この小説は、感情が欠如する「サイコパス」と呼ばれる症状の男が、人間には不可能とも言える残虐な方法で殺人を犯していくというもの。

その中の一つ「第三章~凍結~」に、この状況に極めて近いものがあった。

男は被害者を睡眠薬で眠らせると、用意した液体窒素を胸のあたりから注射する。液体窒素はとてつもなく冷たいので、注射された部分はすぐに凍結し、凍死するというトリックだ。

「これか…!」

僕はかなり大きな希望を見出した。

これなら、いける。

犯人は液体窒素の入った注射器を用意しておき、映画研究部の部屋で待ち伏せする。その後、入って来た蒼衣ちゃんの胸のあたりに注射器を刺し、液体窒素で凍らせる。

…これだ。

「よくやった、飛鳥!」
「いや、そう簡単な問題でもないよ。」
「え…?」

発見した巨大な希望の表面に、亀裂があるというのだ。

「どういうことですか…?」
「これは警察から聞いた情報だけど、睡眠薬は検出されなかったみたいなんだ。待ち伏せして突然刺せばできないことはないけど、そんなことをしたら現場に争った形跡が残るはず。残ってなかったみたいだから…無理だね、その方法じゃ。」