僕は無我夢中でエレベータに乗るべく走った。

だがエレベーターを待っている時間がもどかしくなり、僕は階段を駆け上がることにした。
息が荒れていることなんて気にも留めなかった。僕は精神力だけで走っていると言っても過言ではなかった。

五階まで上がると、すぐに飛鳥の部屋が見えた。

「あった…!」

走り出すが、どうにも体が重い。周りがスローモーションに見える。

「はぁ、はぁ…。」

僕の息の音だけが、今聞こえる唯一の音だった。

「飛鳥!」

僕は病室のドアを勢いよく開けた。中には、病院の先生、看護師さん、文芸部の皆、丹隼さん、そして…顔に何やら白い布をかぶせられた飛鳥が、ベッドに横たわっていた。

「あれ…?」

僕の口から声が漏れる。

「…タイミングが悪かったみたいね、安堂。」
「どういうことだ、御厨?」

御厨はうつむいていた顔を上げて言った。その目には、涙が溜まっていた。

「二分前に手術が終わって…。」
「終わって…?」

次の言葉を言うと同時に、御厨の目から頬を伝うものが流れた。

「手遅れに…なったのっ…!」