「あ、目が覚めた?」

僕は話しかけたが、少女はきょとんとした表情で辺りを見回す。…そうか、今どういう状況か分かんないよな…。

「えっと…倒れてたから、とりあえず家まで運んだんだけど…。」

少女は僕に気づいていないのか、相変わらずキョロキョロと視線を動かす。

「もしもし?」

僕が顔を除き込むと、少女の表情は一変した。

「ひゃっ!あ、えっと…。」
「いいよ、お礼なんて。」

もし僕の前で死なれたりしたら、恐らく僕は狂ってしまうだろうから…。

「名前、何て言うの?」

すると、少女は再びきょとんとした表情になった。

「もしかして…。」

ある嫌な予想が、僕の頭に浮かんだ。

…記憶を、失っているのでは…?

「ちょっと待ってて。」

僕は少女が着ていた、というよりは少女に覆い被さっていた布を見てみた。

この布は、少女が身に付けていた衣服。丁度ベールのようになっており、僕が捲った時に少女の体から離れてしまったのだ。