「…ありがとうございました、先生。葉月に…安らかな最期を与えて下さって。」

半分は本当、半分は嘘だった。

確かに、葉月が安らかな最期を迎えることが出来たのは担当医であるこの先生のおかげだ。そこには、感謝しかない。

しかし僕は思っていた。葉月は…本当に助からなかったのだろうか?あと一つ何か手を施せば、葉月は生きていられたのではないのか?理不尽ではあるが、僕はそう思ってしまっていた。

僕は家に帰ろうと、いつもと何一つ変わらない歩道を歩いていた。

十一月は、もはや冬だ。針のように鋭い寒さを持った風が、僕に吹き付ける。

「理不尽…だな…。」

病院で思ったことを、今一度思い直してみる。特にこれといった進展もなく、代わりに寒さが増した。

僕はコートのポケットに両手を突っ込み、涙を見られないように少し前かがみになりながら歩き続けた。

そして家の前で、僕は見つけたのだった。文字通り、僕の人生を一変させるような存在を。