校門を出ると、見慣れたはずの街の風景が一気に目の前に迫って来た。

刻一刻と変化する世界が、急に意識して感じるべきもののように見えた。

後ろを振り返ると、青い空の下に、懐かしさすら感じさせる学校がそびえていた。寡黙なその姿に、僕は背中を押されているような気がした。そうしたら、少し笑顔がこぼれた。

「どうしたんですか?」

飛鳥が尋ねる。

「…色んなことがあったなって思って。飛鳥と出会ってからもそうだけど、それより前にも、僕はこの高校にいたわけだし。…飛鳥はどう?」
「どうって?」
「卒業して、何か思ったことある?」
「…今はまだうまく言葉に出来ないんですけど…何か重要なものが抜け落ちたような気がします。」
「抜け落ちた?」
「…ここが、私の日常になってましたから…。」
「…飛鳥って、意外と気が変わるのが早いんだな。」
「え…?」
「いや、ここに来てまだ四カ月くらいなのに、もう日常になってるなんてな~って。」
「それは、その…。」

飛鳥が恥ずかしそうに下を向く。

「ん?」
「その…先生も言ってたように、密度が濃かったんです。えっと、太陽さんとずっと一緒にいて、二人の時間が多くて、それが楽しくて、あと、澄鈴ちゃん達にも出会えて…。だから、ここが私の一部になってたんです。

…ここに来る前のことを思い出した時、私、忘れようとしてたんです。だから、気が早いって思われたのかもしれませんね。」
「忘れようとしてた?」
「はい。だから、太陽さんにも言うつもりはなかったんですけど…そろそろ、話してもいい時期かもしれませんね。」
「えっ…?」
「とりあえず、帰りましょうよ、太陽さん。話はそれからです。」

飛鳥が僕の手を掴み、学校に背を向けて歩き出した。