そして色んなものが上の空な状態のまま、時は流れ、季節も移った。

飛鳥が人間じゃないかもしれない。確かめたかったけど、本人に言えるわけがなかった。

「国歌斉唱。」

気がつけば、僕は卒業式を迎えていた。

周りを見てみる。まだ国歌斉唱の段階なのに、もうすでに泣いている人が何人かいる。高端や保護者一同、さらには…飛鳥まで。

隣にいるのに、泣いているのに気がつかなかった。…本当に、ボーっとしたまま時が流れて行ったんだ。

「どうした?」

小声で飛鳥に話しかける。

「…だって、もうすぐ皆離れて行くんですよ?…ほんの少しの間しかこの高校にいられませんでしたけど、でも思い出が詰まってるから…別れが、辛いです。」
「そうだよな…。」

もうすぐだ。今日なんだ。今日で、自分史に大きなピリオドが一つ打たれる。その続きの楽譜は、まだはっきりしていない。

そう思うと、急に日々が色をつけたように思えた。何となくで過ごしていた日々が、もったいなく感じられた。

今日が、最後の日。もう後が無い。だったら、今日を充実させて、しっかりと色を目に焼き付けておくしかない。

「…飛鳥。」

卒業証書が渡される時の待ち時間も、何かを残しておきたかった。

「何ですか?」
「…ありがとな。今まで。あと…これからの分も、先に言っとく。」

恥ずかしいからこそ素直に言える「ありがとう」の五文字。これから、あと何度使い、聞くんだろう。

「…こちらこそ、ありがとうございます。私のこと…好きでいてくれて。」

早速、一回聞いた。