授業中の記憶は、すっぽりと抜け落ちてしまっていた。今の僕には、重要度が低すぎた。

「はぁ…。」

どうにも、教室にいづらかった。隣の席が飛鳥とは…。僕は初めて、この席に不満を感じた。

「…元気ないですね?」

飛鳥の僕に対する気遣いは、ただ優しいからなのか、それとも無理をしているのか…。

「…飛鳥って…何か無理してない?」
「無理…ですか?」
「うん。こういう時でも僕のこと心配してくれてるけど…飛鳥自身は大丈夫なのかなって思って…。」
「…信じてるから、こうしていられるんです。」
「何が?」
「太陽さんも…私のこと、心配してくれるはずだって。」

飛鳥の目は澄んでいた。飛鳥のまた隣の席の高端は、今は教室にいない。だからこそ、僕は飛鳥とこう話をしていられるわけだが、そういうのは抜きで、僕は確実に飛鳥の方に傾いていた。

…それと同時に、僕は高端に謝らなければいけない、ということになる。

ゴメン、と言わなければならなくなる。

でも、言いだせない。言いだせるわけがない。

大切な仲間を裏切るような気がして、僕は自分自身のわだかまりを整理できていなかった。

こんなにまどろっこしい恋愛は、経験したことがない。

葉月との恋は、ただ純粋に、迷うこともなく、一途に恋をすることができた恋だった。

今は、違う。今は、迷いだらけで入口も出口も見えない迷路の周りを、ひたすらぐるぐる回っているだけだった。

少し何かが起きたと思ったら、結局変わらないまま。

…意味がないのかもしれない、と思い始めていたが、別れは強制的に迫ってきていた。

卒業まで、あとわずか。残った時間を、どうするべきか。