教室には、すでに飛鳥と高端がいた。

「早めに話しといた方がいいか…。」

僕は自分自身に言い聞かせるように呟くと、二人を呼ぶべく、あまり気の進まない足をむりやり進ませた。

「…あのさ。」
「あ、太陽さん…。」
「…昨日の答え、出たから…屋上、来てくれる?高端も一緒に、よろしく。」
「…はい。」

飛鳥の顔は、何かを覚悟したような表情をしていた。

僕は屋上に上がり、深呼吸した。

落ちつけ、僕。自分自身の意志を正直に伝えれば、きっと丸く収まるはずだ。

でも、実際はそんなことを考える暇もなく、二人が上がって来た。二人は無言のまま、僕の前に立った。

「…じゃあ、今の僕の気持ちを、ありのままに言うから…聞いてもらえる?」

本当は、言葉にできるほどまとまっていなかった。でも、もう後には引き下がれない。

「単刀直入に言うと…決められない、っていうのが本心なんだ。だって二人とも、僕のことを好きでいてくれてるし、僕が決めたら、どっちかの思いを断ち切るってことになるから…。

だから、どっちが好きなのかって聞かれたら…両方好きって答えるしかない。でも二股ってわけじゃなくて、二人とも、大切な友達だから。仲間だから。…仲間を切り捨てるなんて、できない。

…でも、今は少し…飛鳥の方に傾いてる、かな。」

最後に少しだけ「決断」できたが、恐らくこの時の僕は、僕の生涯においてもっとも軟弱かつ優柔不断だっただろう。でも、これが僕の本心だった。いい嘘も思い浮かばなかった。…いや、嘘を思いついていたところで、恐らく僕は言わなかっただろう。嘘をつくことはあるけれど、ここで嘘をつくと、恐らく一生引っ張って生きて行くことになると思うから。

「キーン、コーン、カーン、コーン。」

チャイムは相変わらず冷たく鳴り響いていた。

「…もうすぐ授業だから…戻ろう。」

逃げた。僕は時間のせいにして、逃げてしまった。