そして何も進展しないまま、夜が明けた。

昨日は一睡もできなかった。朝起きて鏡を見ると、目の下にクマができていた。

「ん…?」

僕のカバンの上に、小さな紙が置かれていた。

「何だ、これ…?」

その紙には、飛鳥の字でこう書かれていた。

「昨日悩んでいたみたいですけど、私の方はもう準備はできています。だから…正直な気持ちを、持ってて下さい。」

玄関に飛鳥の靴はなかった。きっと、僕より先に行ったんだろう。

…飛鳥本人はここにいないのに、すぐ傍に飛鳥がいる、そんな気がした。僕の目から頬を伝い、涙が床に落ちた。

「…行かないとな…。」

時計を見る。いつもの時間だ。僕は飛鳥の置き手紙を財布に入れ、学校への道を歩いた。

道から見える木の枝には、少し気の早い硬いつぼみが二、三個ついていた。寒さも少し和らぎ、冬の終わりと春の始まりを告げていた。

…そうか。卒業か。

もうすぐ、僕は高校を卒業する。皆と離れてしまう。僕と同じ浪人生は何人かいるけど、でも、僕と同じ大学を目指して浪人する人はいない。

一人。

かなり久しぶりに経験する、本格的な一人。想像するだけで、胸が締め付けられるような気がした。

いつもと同じ場所に、いつもと同じようにそこに建っている学校が、いつもとどこか違って見えた。学校の桜にも、硬いつぼみがいくつかついていた。