会場からの帰り、電車の中でのことだった。

「…。」

僕は何も言わず、うつむきながら座っていた。

「…。」

飛鳥も無言のまま、僕の隣に座っていた。

会場から、僕達は一言も喋っていない。もっとも、こんな所で喋る内容も見当たらないのだが。

「次は、西東橋、西東橋…。」

電車のアナウンスは、いつもと何一つ変わらない。

…こんなものなのか。

そうだ。僕が落ちて、飛鳥と一緒にいられなくなるということは、世間的には取るに足らないレベルのものなのだ。

けれども、僕にとっては、かなり大きいことだ。大きいからこそ、僕はこうして落ち込んでいるわけで…。

電車がゆっくりになる。もう降りる駅が近い。

前の席を見てみる。二十代半ばと思われる女性が、スマホをいじっている。

やっぱり、僕の身に起こったことはごくごく小さいものだったんだ…。思い知らされて、悲しみに似た、だが悲しみとは別の感情がうずき始めた。

「プシュゥ…。」

ドアが開く。僕達は無言のまま、電車を降りた。そしてそのまま、何もしゃべることなく家に帰った。

その日、何か言うべきことが起こったわけがない。…いや、起こったことに気づいていない、と言った方が適切かもしれない。