「真夏くん……お、怒ってない? 気持ち悪くない? 引かない?」

「怒ってないし気持ち悪くないし引かない」

「そんなバカな」

「ちょっと触られたくらいで怒らないよ。昴センパイはおれをどんな人だと思ってんの?」

「でも、真夏くんってパーソナルスペース超広そうだし。ベタベタ触られるのとか毛嫌いしてそうだし」

「確かに嫌だけど……昴センパイならいいよ」


あ、ほら、またそれだよ。

あたしならいいとか。何それ。そんなこと、言っちゃってさ。

あたしなんにも特別じゃないよ。きっときみのためになんて何ひとつできないし、他の誰とも違わないのに。


なんであたしならいいの? なんできみはあたしに構うの。

真夏くんは、何を考えてるんだろう。全然わかんないよ。きみのこと、なんも、わかんなくって。


それなのに、そんなこと言うんだもん。

なんか、あたし、変に勘違いしちゃったらどうすんの。


「あ、」


真夏くんが声を上げる。

一瞬目を瞑ったのは、伸びてきた手に驚いたせい。目を開けるとの同時に、ほっぺたに柔らかな感覚が触れて、ゆっくり温度が、伝わってくる。

真夏くんが笑っていた。あんまりにも、優しくて、やっぱり綺麗だって、そう思った。