4時間目の数学は、担任の高良先生が担当していた。

授業が終わって昼休みに入ったとき、あたしはお弁当を取り出すよりも先に、教室を出て行く先生を追いかけた。


「高良先生!」

「ん? おお、篠崎か。どした?」


呼び止めた廊下は人が多くて、どんどん賑やかになっていく。少し、辺りを見回してから、人の少なそうな端の階段に高良先生を引っ張っていった。

踊り場は静かで、むわっと湿気った空気が溜まっている。


「どうした篠崎。告白は、卒業するときにしてくれよ」

「そうじゃなくって、先生、これ、お返しします」


違うのか、となぜだか残念そうな高良先生に、あたしは昨日渡された屋上の鍵を差し出した。

あのまま真夏くんに返しておけばよかったって気づいたのはもう家に帰ってからだ。帰りの施錠は、確か鍵がなくてもできたから、大丈夫だったと思うけど。


「おう、ありがとうな。助かったよ。部活前に行くのメンド臭くってな。屋上まで行かなきゃなんねーし」

「いえ、いいですよ。屋上の鍵って知ったときはびっくりしましたけど」


はい、と、あたしは高良先生の手に鍵を返した。ありがとな、と高良先生はもう一度あたしにそう言ってから、どうしてか、ふたたび、あたしの手に鍵を戻す。ん?


「え、先生、なんですか」

「あ、その鍵な、もうちょっとおまえが持っててくれ」

「は?」

「篠崎、おまえって進学志望だよな」

「え、っと、そうですけど」


何? ハナシの流れが全然見えないんだけど。