「じゃあ私はこれで帰ります」
「おい隼人、時間外手当、忘れるなよ?」
「車の屋根を凹ませた代償でチャラです」
「はぁぁ!? ざけんなよテメェ!!」


 あれだけ大活躍したのによぉ、と、ジョージはエントランスでギャーギャー怒鳴る。
 それによぉ、と付け加えて。


「車はあっちで凹ませたんだから、こっちは無傷な筈だろ!」
「私の車をあんな目に遭わせた精神的苦痛がありますから」
「知るか!!」


 彩香は、そんな二人が言い争っているのを無視してエレベーターに向かった。


「あ、どこ行くんだ彩香! まだ『AGORA』やってるぜ?」
「・・・もういい。今日は疲れた。ウチでビール飲んで寝る」


 じゃあね、と手を振る彩香に、風間が声をかける。


「もし説明が必要なら、明日社長室に来て下さい。社長自ら納得行くまで説明してくれるそうですから」
「そりゃあご丁寧にどーも、隼人くん」


 彩香に名前で呼ばれて、風間はジョージを睨む。
 エレベーターの扉の中に消える彩香。
 そして風間もマンションを出て行き、エントランスにはジョージ一人が取り残されて。


「タダ働きかよ・・・やってらんねぇな」


 そうボソッと呟くと、ポケットに両手を突っ込みながら『AGORA』に向かった。