「逃げられたか…。」
「痛い…。」
その声で再び女性に目を向けると、ストッキングが破れ、左膝から血が出ている。
それと同時に気付いた事があった。
女性のお腹が丸く膨らんでいるのだ。
「もしかして…、妊婦さん?」
「ええ、7ヶ月なんです。」
「立てますか?」
亜優美は肩を抱いて女性を立たせようとした。
「大丈夫ですか?」
うずくまる女性を助けようとして亜優美の反対側に男性が駆け寄ってきた。
「すみません、手を貸して…。」
その男性に助けを求めようと顔を見た時、思わず、あっ、と声を出して驚いた。
亜優美が昨日痴漢だと駅員に引き渡した男性だった。
「昨日の…。」
「一度ベンチに座りましょう。」

