(しまった!) 開いたと同時に痴漢が降りる乗客の波の中に紛れ込んだ為、掴んでいた手を離してしまった。 すぐに振り返る。 目深に被っている帽子。 (あいつか!) 追いかけるように亜優美もホームに降りたが、痴漢は人々の間をぶつかりながら逃げて行く。 (あっ!) 逃げる痴漢の肩に当たって、1人の女性がバランスを崩して前に倒れ込んだ。 亜優美はすぐに傍に駆け寄ると肩に手を置いて顔を覗き込む。 「大丈夫ですか?」 「はい…。」 再び顔を上げたが、もう痴漢の姿はなかった。