「夏芽さーん!」


「ん?」


外に置いてあるベンチに座っていると俺の名前を呼ぶ声がした。


向こうの方で手を振っていた彼女が段々と近づいてくる。


「すいません、お待たせしました!」


軽く息を切らしてるみたいで、冬なのにも関わらず少し汗を流している。


「ははっ」


そんなに汗が出るほど急いで来たのかと、少しおかしくなる。


「あ、なんか私変ですか!?」


「ごめん、何でもないよ。
キミはいつでも可愛いよ」


「えー、それ本気で言ってますか~?」


ぷくっとほっぺを膨らます彼女に、俺は頭を撫でた。


「本気だよ。
いつだって俺はキミに対しては本気なんだ」


微笑んで返すと、彼女は頬を赤らめて


「そうですか・・・」


と小さく呟いた。


こういう些細なことでもすぐ赤くなる彼女が愛しくてたまらない。


少し歩いて目的地の建物に二人で入る。


「夏芽さん、本当に大丈夫なんですか?
ここ結構高い気が・・・」


「値段の事?
大丈夫、キミは心配しなくていいよ。
全部俺の奢りなんだし」


「では、お言葉に甘えます」


小さく笑った彼女に俺も任せて、と笑い返す。


昔彼女は人に奢られるのが嫌いだったけど、最近は少しずつ奢らせてくれるようになった。


甘えてくれていると思ってもいいのだろうか?


いや、そういうことにしとこう。


夜景がキレイに見える窓際にボーイさんが案内してくれて、二人でお互い顔が見えるように座る。


「わー、綺麗ですね」


「そうだね。
こういうの好き?」


「はい!
私夜景とか星とか大好きです!」


「そっか。
ならよかった」


キラキラした目で夜景に釘付けになっている彼女を、見ているのもそう悪くない。


でもそろそろお腹が空いてきた。


「ねぇ、何が食べたい?」


ボーイさんが持ってきたメニュー表を開いて夜景を見ている彼女を呼ぶ。


そうして決まった料理が次々と運ばれるたびに、彼女は目を輝かせていた。


まるで小さな子を見ているようで面白かった。


メインも終わり、デザートを食べている時、彼女がふと口を開く。


「そういえばもう六年ですよね」


「・・・何が?」


フォークを持って動かしていた手を止める。


「何がって、付き合ってからですよ!」


「あぁ、そうだね」


そう、彼女とは高3の秋頃に付き合いだした。


まさか恋愛が苦手だった俺が、こうして目の前に大好きでしかたない彼女ができるとは。


まだ恋愛が苦手だと言っていた高2の夏の俺に聞かせてやりたいものだ。


もう少しでお前の好きな人が現れるぞって。


「時間が流れるのはあっという間ですよね」


「そうだね・・・」


ホント、気付けばもう俺も24だ。


あぁ、年をとるって嫌だな。


ずっと若いままでいたい。


「あの時夏芽さんと出会っていなかったら、今の私はここにいなくて、きっと今の仕事もしてないんでしょうね。
だからあの、何て言うか・・・。
心の底から夏芽さんに出会えてよかったなって思います!」


屈託のない笑顔を向けられて胸がきゅぅぅっと締め付けられる。


あぁ、可愛い!


マジで可愛い!!


抱きしめたくなる衝動を精一杯抑えて冷静さを保つ。


やっぱり、彼女とずっといたい・・・。


「ありがとう。
・・・あのさ、今日大事な話があるって言ったよね?」


「?
はい」


「・・・・」


ごくりとのどを鳴らして深呼吸し、ポケットから小さな箱を取り出す。


「・・・え、これって」


彼女が俺の手の中にある黒い箱を見て、何か悟ったらしい。


それでも俺はゆっくりと蓋を開けて彼女の前に差し出した。


「ずっとずっと大好きです。
”冬花”、俺と結婚してください」


・・・言った。


言ったぞ!


人生最初で最後であってほしい俺のプロポーズ。


「・・・・」


「ん?」


でも彼女は呆然と俺の手の中にある婚約指輪を見ていた。


あ、あれ、もしかして失敗!?


「あ、あの・・・冬花さん・・・?」


おそるおそる声をかけると、ハッとしたように我に返ってきた。


「あ、えっと・・・ごめんなさい」


「えっ!?」


まさかのフラれた!?


「お、俺と結婚するの嫌だった?
それともまだ早い!?
あー、そうだよね。
冬花はまだナースになったばっかりでいろいろ忙しいのに急に結婚しようなんて言われても困るよね・・・。
ごめん」


そうだよ、俺自分の事で一杯一杯で冬花の事全然考えてなかった。


そりゃ断られるはずだ・・・。


でもまさか断られると思ってなくて・・・。


落ち込んで指輪をポケットに戻そうとすると


「ち、違うんです!」


動かした手を捕まれ、冬花に止められた。


「え?」


「あ、あの、結婚が嫌とかそういうわけではなくて・・・。
いきなりでビックリして言葉がうまく出てこなかったんです。
嬉しいです。
すごくすごく、嬉しいです」


ギュッと握られている手に力が込められる。


冬花は泣いていた。


「え、えっと、じゃあ俺と結婚してくれるってこと?」


「もちろんです!
というより私以外は許しません!」


「・・・ふはっ」


胸の前で拳を作る彼女を見て、嬉しくなったと同時に安心して笑いが込み上げてきた。


あの時公園でしたみたいに親指で彼女の涙をぬぐい取る。


「冬花、これからもよろしく。
愛してるよ」


「はい、私も愛してます」


彼女の左の薬指に指輪を通して、ゆっくりとお互い唇を重ねた。




























END