「健さん!
こっちすごいよ!」
当時五歳だった俺は、親戚の酒倉健(サカクラ タケル)さんとよく遊んでいた。
優しくて頼もしくて器用で、まるで本当の兄の様に慕っていた。
そんな健さんと両親と一緒に海に行った日に事故は起きた。
「健さ・・・!」
「夏芽!!」
泳げるからと調子に乗って深い所へ深い所へ進んでいた俺は、突然足をつって溺れていた。
「ガボッ」
うまく足が動かない。
無理矢理身体を動かしたら、余計に沈んでいった。
苦し・・・い。
息が・・・。
海の中から水面を見ると、キラキラとキレイに光っていた。
あー、俺もうダメかも。
そう諦めて目をつむった。
「・・・つめ。
なつめ・・・。
しっかりしなさい、夏芽!」
「・・・母・・・さん」
「夏芽!」
次に目を開けた時には、目の前で母さんがぐしゃぐしゃの顔で俺の顔を覗いていた。
「ここは・・・?
俺、溺れて・・・」
「助かったのよ、夏芽!」
「助かった・・・?
・・・父さんと健さんは?」
「っ!
・・・お父さんと、健くんはあそこよ」
母さんが向いた方に俺も顔を向ける。
するとそこには誰かが懸命に人工呼吸している姿と、誰かが横たわっているであろう足が見えた。
「父・・・さん?」
驚くことに、人工呼吸をしていたのは俺の父さんだった。
相手の顔は見えない。
でもさっきから姿が一向に見えないことで、小さかった俺でも予想はついていた。
たぶんあそこで横たわってるのは・・・健さんだ。



