向かうべき場所はさっき仁が言っていた”参書”。


本当の名前はサクラ書店。


でもそこの書店にはほぼ参考書ばかり置かれていて、受験生などに人気の所だった。


参考書ばかりだから、仁は勝手に”参書”と呼んでいる。


「あ、あった」


どこの書店に行っても見つからないものも置いてあり、俺も結構気にいっている場所。


別に勉強が好きだから参考書を買ってるわけじゃない。


俺には行きたい大学があるから、そのために勉強している。


と言ったほうが正しいだろう。


「後は・・・」


2・3冊買おうと思って欲しいものを見つけ、手を伸ばしたその先に。


「「あっ」」


俺より先に、他の人の手が伸びてきて、一瞬触れる。


「あ、ごめんなさい」

その人の手から、ゆっくりと視線を隣に移す。


そこにはメガネをした黒髪ロングの綺麗な女性がいた。


俺より先に小さく謝る彼女に、俺は笑って


「いえ、こちらこそすいません。
はい」


取ろうとしていた参考書を彼女に差し出す。


「え・・・?」


当然、彼女は首をかしげた。


「俺よりあなたの方が先だったんで」


「で、でもあなたもこれがいるんじゃ・・・」


「いえ、俺は他のでも十分ですから」


そう言ってレジの方へ進んだ。


俺が差し出した参考書を、彼女は両手でしっかり握りしめていた。


さて、あぁ言ったものの、あの参考書が一番わかりやすくて人気だって聞いて探し回ってやっと見つけたやつだったからなー。


結構ショックが大きかも・・・。


情けない。


別に通販でもいいけど、手数料とかかかって余計に高くなるからそれは避けたい。


ま、また入荷するだろう。


卒業するまで一年くらいはあるんだし、そんなに焦らなくても大丈夫だとは思う。


俺は小さくため息をついて、買った二冊の参考書を持って家に帰った。











これが彼女と、俺の初めての出会いだった。