夏と冬



「私、二日前に参考書を如月さんから譲ってもらったんです。
本当に覚えてませんか?
サクラ書店で出会ったこと・・・」


サクラ書店・・・。


確かに二日前参考書を買いに行った。


そこで同時に手にした参考書を、相手の女性に譲ったこともちゃんと覚えてる。


もしかして、その女性の相手が西山さんだったということだろうか?


確かに黒髪のロングで、メガネをかけていたような気がする。


もしかして、本当に?


「あの時参考書を譲ったのが西山さん?」


「はい!
そうです!
覚えてくれてたんですね!」


「うん、まぁね・・・」


覚えてたって言うより、1番欲しかった参考書だったから、記憶に残ってた。


西山さんはさっきまで暗い顔で落ち込んでたのに、俺が思い出したとわかるとパッと表情が明るくなった。


「でもよく俺だってわかったね。
譲った相手」


「名前や学校は今日わかったんです。
ずっともう一度お礼を言いたくて、次の日サクラ書店とか行って、探してたんです」


「そうなんだ」


別にお礼なんていいのに。


律儀な子なんだな。


「まさか同じ学校だったとは思いませんでした!
しかも結構噂のあの先輩だったなんて!」


「噂?」


何それ。


初耳なんだけど?


「今一年生の間ではちょっとした有名人なんですよ、如月さんは」


「有名人?」


俺はこの学校で特に何かした覚えはない。


もしかして不良とかそこら辺の悪い噂なんじゃ・・・。


「”頭がすごくいい先輩”ってことで有名なんです!」


「頭が・・・」


なんだ、悪い噂じゃなかった。



「でもそんな有名になるほど俺、頭いいとは思ってないけど?」


「何言ってるんですか!
春のテスト点数発表結果表見ましたよ!
ダントツ1位だったじゃないですか!」


「うーん、1位だったかもしれないけど、俺なんてまだまだだよ。
行きたい大学に行くにはもっとがんばらないといけないし」


「え、今でも十分すごいのにまだ上を目指すんですか!?」


「うん。
俺には叶えたい夢があるからね」


「夢・・・ですか」


そうつぶやいた彼女は、寂しそうな表情をして視線を下にずらした。


どうかしたのかな?


「にし・・・」


「さて、そろそろ帰りましょうか」


「え?」


俺が声をかけようとした時、西山さんが先に口を開いた。


ケータイの時間を確認する。


「ご、5時過ぎ!?」


「はい。
なのでそろそろ帰りませんか?」


「そう・・・だね」


夏で、中々日が沈まないから5時過ぎになっていることに気付かなかった。


約ここに1時間はいたことになる。


西山さんが帰ろうと切り出さなかったら、6時までいたかもしれない。


まぁ、話が尽きなかったらの話だけど。