「夏芽ー!」


「うわっ、何?」


放課後、帰ろうと支度していた俺の目の前に、仁がやって来た。


何だか焦ってる感じだ。


「悪い夏芽!
今日一緒に帰れそうにないんだ!」


顔の前でパンっと両手を合わして謝る。


なんだ、そんなことか。


「そっか、じゃあ俺先帰るな。
でもこの後なんかあるっけ?」


「それがさー、今日の数学の小テスト点数悪くて…。
これから追試なんだ」


「いつものことじゃん」


「いつものこととか言うな!
まぁ、そういうことだから。
じゃあ気をつけて帰れよ」


「うん、じゃあまた明日」


鞄を持って教室から出る。


気をつけて帰れって、俺の母さんか。


相手が女子ならまだしも、男に言うって…。


学校を出ながら、俺は仁の言葉を思い返してクスクスと小さく笑った。