「夏芽、対戦しようぜ!
対戦!」


「はいはい」


隣に並んで対戦ゲームを始める。


「今日こそ勝ってやる」


始まる前にそんなことを仁がつぶやてたけど、俺は聞いてないフリをした。


そして始まって数分。


「な、何で、こんな勉強バカに勝てないんだ・・・」


「悪かったな、勉強バカで」


「あっ」


あっじゃないよ、あっじゃ。


苦笑いして誤魔化してるし。


「おかしーなー。
今日こそ勝てると思ってたんだけど」


「仁は攻撃ばっかりで防御しないからすぐ負けるんだよ。
時には防御も大切だよ」


「ぐっ・・・。
こ、今度までにはもうちょっと研究しとく。
くそー、やっぱ悔しいなー」


ガシガシと頭をかく仁を見て、少し何だか罪悪感的なのが生まれた俺は小さくため息をついてあるところを指さした。


「じゃああれやろう。
あれなら仁得意だろ?」


「んー・・・?」


俺が指さした方を見た仁は、一気に表情がパァーと明るくなった。


「しょ、しょうがねぇなー!
どうしても夏芽が取って欲しいって言うんなら取ってやってもいいぞ!」


なんだそのツンデレ要素が入った言い方は。


お前ツンデレキャラじゃないだろ。


・・・まあいいか。


「うん、取って欲しい」


「よーし任せろ!
で、どれだ!?」


やる気満々じゃないか。


俺はクスクスとさっきまで落ち込んでたのに、とたんに元気になった仁に笑った。


「じゃあこれ」


特に欲しいものはなかったけど、せっかくだからと置いてあった望遠鏡の商品に指さした。


「ほー、お目が高いですなー、夏芽どの。
これは普通の人なら取るのに結構苦労して、結局は取れなかったパティーンが多い配置の台ではないですか」


ほほうと、顎に手をしてニヤリと笑う仁。


普通の人には難しい台とかあるのか。


「しかし心配しなさんな。
俺が華麗に取ってしんぜよう!」


「あー、うん。
任せるわー」


ほぼ棒読みの俺に、仁は「任された!」と言ってさっそく取りに挑んだ。


迷いもせず500円玉を入れる。


「すごいな、500円玉に躊躇もないなんて」


「あー、こういうキャッチャーものにちまちま100円玉入れる奴とかが多いと思うけど、結局は取れなくて500円以上入れる奴が大半だからな。
だったら最初から500円玉入れたほうが1回分お得だろ?」


「ふーん」


キャッチャーものとかあんまりしないからよくわからないけど、そういうもんなのかー。


「ま、でも500円入れて3回で取れたってやつだったらちょっと損かもな。
金は返ってこないから、他の台で使うしかない。
他に欲しい商品がない時は200円無駄になるかもな。
そういうデメリットもあるから、考えてから500円入れることをおすすめする」


「って言われても俺ゲーセン自体そんな行かないから・・・」


「あぁ、そうだったな。
っと、ほら、取れたぞ」


「えっ!
マジで!?」


「あぁ。
感謝してくれよ?」


「うん、ありがとな」


いつの間に取ったのかもわからない内に、仁は俺に望遠鏡の景品を渡してくれた。