「桐谷くん」
試合が始まってしばらくしてから、ぼんやりとコートの中を見ているとふいに声をかけられた。
振り返ると、そこには中野がいた。
「奈乃がまだ来てないんだけど、何か知らない?」
「……いや、俺は何も……」
首を横に振る。
これは事実だ。ていうか、中野が知らないのに俺が知るわけないだろう。
「そっか……。まったく、あの子は何してんだろ」
ブツブツとつぶやきながら、心配そうにしている中野。
おとなしい中野と、うるさいくらいの折原奈乃じゃ、性格が正反対なのに、どうしてこんなに仲がいいのか不思議に思った。
それと同時に、周りに彼女がいないだけで、とても静かで、物足りないと思っている自分がいたことに気づく。
……嘘だろ。


