ある日、私達は地元の有名な滝を見に行く事になった。
その滝は私は以前に訪れており、マイナスイオンを感じ、鳥や清流の小魚が跳ねる爽やかな場所だった。
二人で、お弁当を持ってハイキング気分で出掛けた。
滝までは山道を歩くようになるので、前日のハードな棚卸しに疲れた私達は、滝に付いた時点でバテ気味だった。
どこかで休みたい
いっしんで、
キョロキョロしていると、石階段の上に机と椅子が見えた。
数十段の階段だから疲れたと言っても
登れない程でもないが、私はなんとなく登りたくなかった。
私がそう言うと彼女も同じ意見だった。
ふと見ると、石で出来た椅子があった。
そこに座って滝を鑑賞出来るようになっていたのだ。
私達は、すかさず座ろうとしたが椅子の上に
黄色いウエストポーチが置かれていた。
忘れ物
どうしようかと私が悩んでいたら、ためらう事なく、彼女がウエストポーチを掴むと下に置いた。
紙切れがヒラヒラと落ちた…
○月○日、山道にて拾いました。
一週間前の忘れ物で誰かがメモを書いて
石の椅子に置いたようだった。
私は嫌な感じがした…。
彼女もそう感じたのか、不安げな表情をしていた。
私は、彼女を安心させるためポーチを階段の横の石の方に持って行った。
彼女の目に付かないようにする為だった。
「後から、ポーチ元の場所に戻そうね」
そう言いながらポーチを置いていると
祠がある事に気付いた。
祠には、お地蔵様がいた。
私はお地蔵様に手を合わせるとウエストポーチをお地蔵様とは別な場所に置いた…。
階段に背を向け滝を見ながら私達は雑談をしていた。
私はお菓子を食べようと、斜め後ろに置いた自分のカバンに手をかけた瞬間、ふっと視界に階段が入った。
階段のてっぺんに何か居た。
とたんに、キーンと耳鳴りがする。
私は連れの彼女に気付かれないように、つとめて明るく会話を続けた。
形も曖昧だし、ほっておけば害はないと思ったからだ。
「滝、綺麗だよね前回より水多いからかな昨日雨降ったからかも…」
そう言いながら、ある疑問が沸いた。
あの忘れ物のウエストポーチが濡れてなかった事…。
その瞬間、富士山の青木ヶ原の樹海の映像が頭に浮かんだ。
自殺の名所の映像。
まさか…
私は自分の考えを否定するかのように、お菓子を開けて連れの彼女に手渡そうとした瞬間に、寒気がした。