身代わり王子にご用心







「お姉ちゃん、卒業おめでとう!」


懐かしいマンションのリビングでは、これまた懐かしい顔ぶれが揃ってた。


妹の桜花がクラッカーを鳴らして、曽我部さんが乾杯の音頭を取る。彼女はノリがいい人だから、仕切り役には打ってつけだった。


「桃花さん、卒業おめでとうございます」


義理の弟となった健太朗くんが、娘の桐花(きりか)ちゃんとともに花束を渡してくれる。つい先日一歳を迎えたばかりの姪は、たどたどしく「おば、おめと」と言って場を和ませた。


「きゃ~可愛い! やっぱり女の子っていいですよねえ」


そんなふうにはしゃぐのは、藤沢さん……もとい、未来さん。


「女の子だと将来お買い物に行ったりお料理したり……夢が広がりますよねえ」


ベージュのワンピースを着た未来さんは、相変わらずかわいいけど……。


「未来さん……あなたが胸に抱いている人に失礼ではないでしょうか?」

「あれ? そうですか。大丈夫ですよ~翼(つばさ)は一度眠るとなかなか起きませんから」

未来さんはシレッとした顔でおっしゃっいますが……。


私は知ってますよ。今生後10ヶ月の息子くんが、いつお出来あそばしたお子様か。


そう。


旧姓藤沢さんの今の性は、葛城。


桂木さんが正式な葛城の表記に改めたのは、藤沢さんとの結婚がきっかけだった。


桂木さんがガッツリ食われた翌月の末、藤沢さんの妊娠が発覚。桂木さんは責任を取る形でそのまま入籍した。


とはいえ。葛城さんとなった今は、葛城グループとは一切縁を切って親子三人アパートで暮らしてる。


もちろんスーパーも辞めて転職し、休日限定とはいえ映画の仕事も手伝っている彼は。今までと違って生き生きとしていた。


守るべき人が出来て落ち着いた彼は、すっかり私のことを忘れ家族を大切にしている。