「ありがとうございます、最後にとても思い出深い作品を拝見させていただきました」
カイ王子が店長と春日さんにお礼を述べている最中、マリアさんが近づいて侍従長のアレクシスさんに笑みを向けた。
たぶんドイツ語であろうやり取りをした後、アルベルトさんがカイ王子に耳打ちする。
(い……今のうちだ)
「坂上さん、私はこの後用事がありますので……すいません、お先に失礼しますね」
「そう。お疲れさま! 感想はまた明日ね」
「はい」
チラチラと周りを気にしながら、帰る人たちに混じり人垣を抜ける。
買い物用ロッカーに預けてあった紙袋を手に女子トイレに飛び込み、スーツに着替えた上にメイクと髪型を変えて伊達メガネを掛ける。
そしてそのまま近くの喫茶店に入ると、店員に一声かけてから予約席に腰をかけた。
一番奥まった場所にあるこの席は、大きめの仕切りが壁の役割を果たして個室と変わらない。
午後8時過ぎ。喫茶店はちょうど閉店時間だけど、今日は予約を入れて7時から9時まで貸し切りになってる。
ソファに座り落ち着かない気分で何度も水を飲み、空になってはお冷やのお代わりが注がれてますますそわそわしてくる。
腕時計を何度も何度も確認をしていると、やけに時間の進みが遅い。落ち着けと自分に言い聞かせても、高揚する気分が収まってはくれない。
やがて喫茶店のドアベルが軽快な音を立てて揺れた瞬間、飛び上がりそうなほど驚いた。
――マリアさんにつれられたカイ王子が、ようやく喫茶店やって来た。



