身代わり王子にご用心




「あっ……」


思わず、声を上げざるを得なかった。


だって……


およそ一ヶ月前に辛いめに遭わせてしまった美咲ちゃんが、お母さんとおぼしき女性と食品フロアに買い物に来てたから。


(……今しか、ない。今しか)


ずっとずっと後悔してきた。やり直し出来たら……って。


2人は、私が担当する生鮮品コーナーに近づいてくる。


ドキドキと胸を高鳴らせながら、ポケットにずっと入れてきた袋とチケットを手に取る。


そして、ハムのコーナー前で足を止めた2人に近づくと。思い切って声をかけた。


「あの……本日、二階の催事場で無料の子ども向け映画の上映会をしてます。毎時開始で……このチケットで親子ペアで入場できますから。よかったらいかがですか?」

「上映会? アニメかなんか?」


金髪のお母さんは胡散臭いものを見るような眼差しだけど、美咲ちゃんは……。


情けないことに彼女をまともに見れないけど、そんなことじゃいけない! と自分を叱りつけて美咲ちゃんに笑いかけた。


「すごく楽しい映画だよ! お金がかからないから、時間があるならどうぞ」

「……ママ、美咲見たいな」


美咲ちゃんはお母さんの毛皮のコートの端を引っ張ると、懇願するように言う。お母さんは面倒そうに舌打ちするけれど、仕方ないと言った様子で渋々OKを出した。


「……うちにはテレビがないからね。ま、たまにはいいよ。ただし、ソフトクリームはなしだからね」

「ありがとう、ママ!」

「よかったね。これ、チケットのおまけのプレゼント!」


それだけ言うと、美咲ちゃんにチケットと共に巾着袋を押し付け、急いでその場を去った。