身代わり王子にご用心






「カッツーの作品を上映会に入れてもらって、ありがとうございました」


先ほどまでとは打って変わって、藤沢さんは春日さんに頭を下げ謝った。


「それから、事情を知らないのに生意気な事を言ってしまってごめんなさい」

「ああ、いいのよ。春日先輩はいっつもキツイしゃべり方しか出来ない。あれが平常運転だから、よくトラブルを起こすのよね。だからモテないし」


曽我部さんが手をパタパタと振ってから、ニヤニヤと何やらよからぬ笑みを浮かべる。


「と・こ・ろ・で~? カッちゃんを一生懸命擁護したあなたは?」

「わたしは藤沢 未来です。桃花さんの後輩で、桂木さんとは同期になります」

「ほ~!」


曽我部さんはガシッと藤沢さんの腕を掴むと、頭をがしがしと撫でまくった。


「そっかぁ、よしよし! やっとカッちゃんの大切な人が現れたわね。うむ! あ、ちなみにあたしは曽我部っていうの。きっついのが春日でデカイのが物部。後は以下略。みんな高校の映画部繋がりで、今は同好会みたいな形で映画を撮ってるんだ」


「以下略って扱い、ひどくね?」

「おれらはモブかよ~」


紹介を略した曽我部さんに、他のメンバーから不満の声が上がるけど。「お黙り!」と一喝しただけで黙らせるパワーの前には、さしもの藤沢さんもタジタジらしい。


だけど……


大切な人の世界に触れられて、すごく幸せそうに笑ってる。

みんなにも違和感なく溶け込んでいるし、受け入れられてる。


(……この分なら、きっと大丈夫)


開店前のBGMがかかり始めたのを合図に、そっと会場を抜けて売り場へ戻った。