身代わり王子にご用心



「……未来」


泣いてる藤沢さんに、桂木さんが声をかける。人前だからかあからさまにはしないけど、その手を握りしめたのを見逃さなかった。


しばらく沈黙が落ちた後、今まで黙っていた曽我部さんが春日さんに一つの提案をする。


「それじゃあさ。カッちゃんの短編を一つ上映したら? 子ども向けって条件があるけど」

「……それは」


困惑顔を見せたのは春日さんではなく、当の桂木さん本人で。次に眉間を寄せて難しい顔になる。


「一人で全てを作るには、僕はまだまだ未熟で。作品も鑑賞に耐えられるものじゃないよ」

「それを判断するのは俺たちじゃない。観た人間が思うことだ」


のんびりとそんな事を言ったのは春日さんで、彼は腕を組みながら桂木さんを挑発する。


「それとも、どの作品もいい加減な気持ちで作ってるにすぎないのか?」

「違う! 僕はちゃんと真剣に取り組んでいる!」


さすがに桂木さんも頭に来たらしく、少し声が上ずっていた。


それを見た春日さんは、ニヤリと笑う。


「なら、問題なく上映出来るな。おい、暁。5分ものの短編を今から持ってこい。ニセ高宮の作品の1つと差し換えて上映してやる」

「えっ……」


戸惑う桂木さんに、腕時計を眺めた春日さんが言い切った。


「ぐずぐずするなよ。第一回の上映会は11時からだ。間に合わなければこの話はなしだ」

「わ……わかった。子ども向けの5分以内の短編、だな?」


突然やって来たチャンスに驚いていた桂木さんだけど、それが本気だと知った後のフットワークの軽さが驚異的。


内線で事務所と店長の許可を得ると、さっそく作品を取りにいくために小走りでお店を去った。