「僕は……」
項垂れたままの桂木さんは、握りしめた拳が震えてた。
春日さんの言い方はひどいけど、言ってることはたぶん間違ってない。映画とかで身を立てようと思うなら、中途半端な気持ちで手を染めても結果は出ないんだろう。
(私も……お料理の世界に飛び込むからには、中途半端な気持ちではいないでおこう)
「どうした? 俺に言い返せないのか」
誰かさんに似た言い方をする春日さんに、物部さんが「言い過ぎです!」と咎めた。
「暁に退っ引きならない事情があったのは知ってるでしょう。彼だってどんなに悩んでたか知らないんですか?」
「そんなの関係ないね。俺が言いたいのは……」
ピコッ、と可愛らしい音が響く。何かと思えば、春日さんの隣にあるテントにピコピコハンマーが当たった音だった。
「カッツーを悪く言うのは、わたしが許しませんよ!」
鼻息荒く登場したのは、遅番だったはずの藤沢さんで。よほど急いでたのか、いつもきっちりセットした髪が乱れて汗を流してた。
……というか。どこからピコピコハンマーを出したんだろう?
腰に手を当て仁王立ちした藤沢さんは、ピコピコハンマー片手に春日さんを睨み付けた。
「カッツーがどれだけ一生懸命にスーパーの仕事に取り組んでいるか知らないくせに、勝手なことを言わないでください!
映画に対する情熱だって、今も失ってません。
あなた達は知らないでしょうけど……カッツーは今だって、小規模な作品を一人で地道に作っているんですよ!
毎日残業で大変な中で、ひっそりとコツコツ頑張っているんです!それなのに」
感情が昂りすぎたのか、藤沢さんの瞳から涙がポロッと流れた。



