身代わり王子にご用心





妹が母親になる……何だか不思議な気分だった。


私の中では桜花はまだ中学生の姿のままで、いつまでも可愛い妹だったけど。そんな彼女がもう母になる、という事実にすぐには現実感が湧かない。


だけど。


自分と血の繋がる新しい命が、もう妹の中で息づいているんだ……そう思うと、嬉しくもあり複雑な気分になる。


(嬉しいしおめでとうも言える……でも)


決して自分が得られないものを、妹がまた手に入れる。羨ましい、と思う気持ちが拭いきれない。


(ダメだな……私は。そういうのは諦めるって決めてるのに)


ちゃんと笑っておめでとうと言わなきゃ……。





「おなかに赤ちゃんがいるの?」


朱里ちゃんは不思議そうに桜花のお腹をジッと見てる。


「そうだよ。今はまだちっちゃいけど、これから大きくなって、秋には生まれてくるんだよ」

「ふ~ん」


朱里ちゃんは興味津々みたいで、ぺたぺたと桜花のお腹に触れてた。


「じゃあ、桜花お姉ちゃんはママになるんだね。ママになるってどんなきもち?」

「そうだねえ……嬉しいし、すごく幸せだけど。ちょっと怖いかな」

「怖いの?」

「うん。ちゃんと生まれてきてくれるかな……とか。ちゃんとママになれるかな……とか。いろいろあるんだよ」


桜花は子ども相手にも下手にごまかすことなく、きちんと伝えている。彼女らしいな。


「じゃあ……朱里のママもパパも恐かったのかな?」


ポツン、と朱里ちゃんが出した言葉に衝撃を受けた。


「ママはいつも朱里に怒ってばっかりだった。あたまを手でぱしんってされたの。パパはかおとかからだをぶってきたの。ごはんもよくなしにされたよ」