身代わり王子にご用心







「桃花さん、わたし……販売士の資格を取るって決めました」


落ち着いた頃合いを見計らってか、椅子に座った藤沢さんがそう切り出してきた。


「とりあえず、今年の7月にある試験で3級に合格したいと思います」


3級は売り場の担当程度の知識や接客術が必要だったと思う。スーパーで働くなら、取っておいて損はない資格だ。


「そう……藤沢さんはずっとスーパーで働くの?」

「もちろんですよ! パンとお菓子って、単純なようでとっても奥深いですし。そのうちに他のそういった資格も取って、もっと勉強をして。仕事に役立てたいんです」


それに、と藤沢さんは言葉を付け足す。


「本当なら、自分で小さなお店でも持ちたいんですけど。まだまだ貯金はなくて無理なんで」

「小さなお店? コンビニとか」

「違います。わたしのちっちゃい頃、近所に駄菓子屋があったんです。おばあちゃんが店番をしてて、よく学校帰りに寄って買い食いしてました。
今はおばあちゃんが亡くなって、お店もつぶれてしまってますけど。あんなお店をいつか出したいな……と思うんです。
子ども達が気軽に立ち寄れて、小腹を満たせるお菓子やパンがあって。友達との社交場にもなれるような……そんなお店が」


藤沢さんが語る夢は、現代だととても難しい。昭和ならともかく、同業の競争率が過酷だ。特にコンビニなんかが。


でも……


彼女の夢は、素敵だと思う。


子ども達がゲームやスマホやタブレットやテレビだけじゃない、リアルなコミュニケーションを持てたら。どんなに素晴らしいことだろう。


やっぱり人と人とのコミュニケーションの基本は、直に会って言葉を交わすことだと思うから。