嫌われたり変な人と遠ざけられるのがイヤで。ずっとずっと言えなかった。
だけど……
キュッ、と布団の端を握りしめる。
(このまま……別れてしまったら、きっと後悔することになる)
近いうちに出ていく決意をしているのだから、きちんと自分の気持ちを伝えておこう。受け取ってもらえなくても。
小さく深呼吸をして、落ち着けと言い聞かせながら喉を鳴らす。
「あ……あの、藤沢さん」
「はい?」
オレンジジュースを置いてた藤沢さんは、何気なく振り向いてくれる。全く警戒心がない空気に、それだけ信頼してくれているなら……と全てを明かすことに決めた。
「……今まで、ありがとう。藤沢さんがいてくれてよかった。今まで桜花以外まともに喋れる相手がいなかった私を、これだけ親しくしてくれて。どれだけ嬉しかったかわからないくらい」
「桃花さん……急にどうしたんですか?」
唐突な言葉に、彼女は訝しげな顔をする。
そうだよね。普通は変に思うよね。
だけど、対人スキルが低すぎる私には。これがいっぱいいっぱい。
「……何だかお別れの挨拶に聞こえますよ」
「うん……近いうちに出ていこうと考えてるから。仕事も……今のところを辞めて新しいところへ移ろうかと思って」
「……なぜ、ですか?」
ブルブルと肩を震わせた藤沢さんは、私の肩を掴んで揺さぶる。
「なぜ、ですか? 3月までいないのは……もしかして……私に遠慮したせいなんですか?」
「藤沢さん……」
そして、彼女は決定的な言葉を放った。
「カッツーが……あなたに横恋慕したから、なんですか!?」



