コンコン、とドアがノックされたから、慌てて雑誌を引き出しにしまう。
「はい!」
「桃花さん、気分はどうですか? リンゴを擦ったので食べます?」
「あ……ありがとう。もらおうかな」
藤沢さんの訪問に動揺しつつ、何とか平静を装おうと必死になった。
「失礼しますよ」
ドアが開いてホームワンピースを着た藤沢さんが部屋に入ってきた。
フワリと巻かれた栗色の毛がよく似合う、可愛らしい顔立ち。夢見る少女がそのまま大きくなったような、それでいて女性として成熟した魅力もあわせ持つ。薄いピンク色のワンピースが覆う身体も、十分魅惑的な曲線を描いてた。
(やっぱり……桂木さんは血迷ってるだけだ。こんな可愛い人がいるんだから)
「マリアさんがアップルパイも焼いてくれたんですよ。食欲が出たら、これだけでも食べちゃってくださいね」
無邪気な笑顔でサイドテーブルにトレーを置いてくれる藤沢さん。
彼女はこれだけ私に優しくて気遣ってくれて。いろいろ話してくれるのに。私は……。
“あなたもカイも、よく似てる。周りからの好意に鈍いくせに、気を回しすぎて自分の気持ちを言葉にしないところ……とか”
ショッピングモールでマリアさんに言われた言葉が、このままじゃいけないと自分を急き立てる。
カイ王子は、確かに言葉が足りなかった。私に肝心のことを言ってくれなくて。やきもきしてたっけ。
私も……同じかな。
すぐに自分の言葉を引っ込めて、なかなか本当の気持ちを人に伝えようとしなかった。



