身代わり王子にご用心





今度こそ、最終通告を突き付けられたと思う。


視界も思考も――全てが真っ白になるくらいのショックに襲われた。


――カイ王子には、子どもの頃から好きな人がいたなんて。


きっと、あちらのお嬢様なんだろう。私と違って可愛らしくて、年も身分も釣り合っていて……。


もしかすると妖精のように儚くてか弱いひとなのかも。マスコミやパパラッチに追いかけ回されないために、あえて名前を言わなかったに違いない。


愛しいそのひとを守るために。


「……っ」


カタカタ、と震えた茶器がぶつかり音を立てる。


今さらながら、自分は何の立場にもなれない……と知って。


知ってた、のに。解ってたはず、なのに。


――なのになぜ


こんなに苦しいんだろう?


胸にせりあがる苦味が胃を重くして、せっかくいただいた紅茶を吐きそうになる。


――きもち……わるい。


「モモカ、大丈夫?」


異変に気づいたマリアさんが店員を呼んでくれ、図々しくも事務所の簡易休憩室で休ませてもらった。


マリアさんが隣で私を支えてくれ、ゆっくりゆっくりと頭を撫でてくれる。


柔らかく優しい香り……


こんな素敵な人が間近にいても、カイ王子は惹かれなかった。なら、やっぱり好きな人は彼女以上に魅力的なひと。


「ううっ……」


吐きたいのか泣きたいのか解らない呻き声を漏らした私に、マリアさんはこう話してきた。


「……モモカ……ちゃんとカイの言葉を自分の耳で聞きなさい。カイは決していい加減な気持ちで手は出さない。信じてあげて」