身代わり王子にご用心






「わあっ! これ可愛い。朱里、これも着てみたい」


やっぱり女の子だけあって、朱里ちゃんも服には目がないようだ。


マリアさんは女性のボディーガードさんに「好きなのを試着させてあげて」というと、店内に置かれた椅子に腰を下ろす。


「モモカも隣へ。ちょっと休憩しましょう」


いいのかな? と気にしながらそこに座ると、従業員さんがサービスの紅茶を持ってきてくださった。


やっぱり高級店はサービスが違うなあ、とティーカップで揺れる紅茶をぼんやり見ていると。マリアさんが音もなくカップをソーサーに戻した。


「単刀直入に訊かせてもらうけど、アカツキと何かあったわよね?」

「……!」


問いかけではなく、断定。マリアさんがそこまで気づいてた、という現実に焦りを覚える。


「あ、あの……藤沢さんには」

「ミクには言わない。そんな下世話なお喋りはしたくないもの」


マリアさんはきっぱりとそう断言してくれたことで、胸を撫で下ろしそうになったけど。彼女次のひと言でそれどころじゃなくなった。


「けどたぶん、ミクは気づいてると思うわ。今はあなたが大変だから、言わないだけで」

「……藤沢さん、が……」

「あなたが本当に好きだから、だと思うわ」


それを聞いて、ガツンと頭が殴られたような気がした。


今まで藤沢さんがどれだけ慕ってきてくれたか。考えてみればわかるのに。


「あなたもカイも、よく似てる。周りからの好意に鈍いくせに、気を回しすぎて自分の気持ちを言葉にしないところ……とか」


そう話してくれるマリアさんは、むかしを懐かしむ目をしていて。ちょっとだけ羨ましく思う。