身代わり王子にご用心




「……それで、父親には伝えたのですか?」

「それが、ねえ」


坂上さんはストローを置くと、盛大にため息をつく。


「まったく話ができないそうよ」

「話ができない?」

「さっきも言ったでしょう、万引きの時に連絡が取れなかったって。
幼稚園の送迎バスはすぐ近所の奥さんが自分の子どもついでに一緒に世話してくれるみたいだけど。首に掛けたカギで家を開けても、誰もいないみたいなの。
連絡してもまったく繋がらないらしいし。家もずっと真っ暗で静かだって。
たまりかねた奥さんがたまに一緒にご飯を食べさせるらしいけど、ご飯を何杯もお代わりするぐらいお腹が空いてるんですって」


服もずっと同じものを着っぱなしで身なりが薄汚れてるから、余計にいじめられるのかもね。と、坂上さんが締めくくった。


あと、もとフロア長は若い女子大生のバイトちゃんとよく2人でいると教えてくれた。元は大谷シンパの1人だったとか。


2人が深夜の繁華街で腕を組み、ホテルに消えた姿も噂になってるらしいと。


「……そんな」


まるで、幼い頃の私みたいだった。


父親はいい加減で親としての責任を果たさず、女好きのろくでない男。

他の子どもからいじめられて居場所がない。


……その辛さは、その立場にならないとわからない。


どうして……親になる決意をしたはずなのに、その責任を軽々しく放棄できるんだろう。


若い女の子と遊びたいなら、結婚をせず子どもも作らずにいればいいのに。


いいえ。娘さんの方がひどい状況だ。母親が逮捕され父は育児放棄なんだから。


どんなにつらい思いをしてるかと思うと、居ても立ってもいられなかった。