「……万引きを?」
「ええ。娘が連絡を受けてお店に迎えに行ったんだけど。その時、父親の携帯電話やお家の電話に何度電話しても、連絡がつかなかったそうよ。幸い初犯だったし、娘が代わりに代金を払って収まったんだけど。これに味をしめたらしい子ども達が何度も強要してるらしいの」
それだけじゃなく、仲間外れにしたり荷物を隠されたりしてると話してくれた。
「たぶん、体でも暴力を受けてるんじゃないかって娘は言うの。先生達の前だと大人しいけど、制服であるスモックから見える生傷が絶えない……って。
一部の保護者は犯罪者の子どもと同じ幼稚園にいさせたくない、って。他の保育園への転園かやめさせるかを迫ってるらしいわ。
やっぱり子どもは親の鏡ね。きっといじめてる子どもの親がそんなクレームを出してるんだわ」
やっぱり……と言うしかない展開だった。
特に幼い子どもというのは正直で残酷だ。大人の影響を受けやすいから、親が黒で悪いものと言えば妄信的に信じる。
心配して恐れていた事態が起きて、知らず知らずグラスを持つ手が震えてた。
カタカタと鳴る音に気付いたのか、坂上さんはそっと手を握りしめてくれた。
「あなたが気にすることはないわ。一番悪いのは、娘をそんな状況に追い込んだ母親なのだから」
「でも……いじめは、とても辛いです」
灰色の景色の中で起きた、私の人生を一変させてしまった出来事。その犯人が自らの娘すら顧みなかったことに、どうしようもない怒りを感じた。



