「大谷さんの娘さん、って……今はフロア長が面倒を見てるんですよね?」
「元、フロア長ね。今は降格して靴売り場の担当になってるわ」
坂上さんからその話を聞いて、そういえば桂木さんが一社員に降格させたんだ、と思い出した。
「降格は仕方ないと思うのよ。在庫管理がかなり杜撰だったし、レジの過不足金だってきちんと報告してなかったもの。私語も多くて、感情的で。えこひいきがすごかったものね」
売り場移動して1ヶ月も経たない坂上さんでさえ、うんざりした顔でため息をつく。つくづくフロア長は変わらなかったんだな……と思った。
「それで、もとフロア長と娘さんがどうかしたんですか?」
話を促すと、坂上さんは話しにくそうにアイスティーをかき混ぜる。カラカラと氷がぶつかる音がして、はぁっと大きく息を吐いた。
「これって、本来なら家庭の事情ってプライバシーに絡む話だから、あんまり他人に話しちゃいけないんだろうけど。あなたも当事者の一人だったし。後から知ったらきっと自己嫌悪になってしまうだろうから、あなたにだけは話しておくわ」
「家庭の事情……ですか?」
話の流れからいけば、大谷さんがいない娘さんと旦那さんの暮らしぶりってことになるけど。
そう、と頷いた坂上さんは言いにくそうに言葉を付け足す。
「娘さんは今年長組なんだけど、そこでいじめられてるらしいのよ。
この前なんて“どろぼうの子どもだから盗んでこい”って、人気キャラクターのお菓子を万引きするのを強要されて、幼稚園に連絡がいったらしいわ」



