身代わり王子にご用心






午前中に鮮魚の発注と処理を終わらせ、約束していた喫茶店にやって来た。


スーパーの二階にも小さな喫茶店はあるけれど、関係者がよく休憩に使うから社員食堂と変わらない。


ロッカーで制服の上からコートだけを羽織り、従業員出入口で警備のチェックを受けて外に出る。


駐車場内に建てられた喫茶店は私の子どもの頃からあるレンガ造りで、ウッドデッキもあるちょっと洒落たカフェ。


真冬の今は流石に外で座る人はいないから、ドアベルを鳴らしながら店内に足を踏み入れた。


坂上さんは先に待っていて、既にパスタランチを注文してる。私は今日は食欲がないから、サンドイッチとオレンジジュースを注文した。


「わざわざ呼び出してごめんなさいね。ちょっとお店じゃ話しにくいことだったから」

「いえ、私は構いませんよ」


先に運ばれたオレンジジュースにストローを挿し、一口飲む。甘酸っぱさが広がって、いつもより美味しく感じた。


「あのね、あなたはあまり聞きたくないかもしれないけど。大谷さんに関係する話なの」

「……まあ……別に、構いませんよ」


坂上さんが相当気を使ってここを指定したのは、私のためでもあるんだろう。その気遣いを思えば、一方的に拒絶するのも大人げない気がする。


ホッとしたような坂上さんは、話を続けた。


「私の子どもは4人いるって知ってるでしょう? 長男の元が桃花ちゃんの3つ下でサラリーマンをしてる。次は短大を出て今は幼稚園教諭をしてる長女なんだけど」


幼稚園? と聞いて訝しく思ったけど、次の言葉で漸く納得がいった。


「長女の萌絵が勤めてる幼稚園だけど、そこには大谷さんの娘さんが在籍してるの」