「へえ……液に一晩浸けた方がよく染みて美味しくなるんですね」

「そうだよ。あっさりがいいなら、サッとくぐらす程度で」


2人で並んでフレンチトーストを焼いてると、妹のことを思い出す。


ハニーフレンチトーストは桜花が好きだった。レシピを教えたら、健太朗くんに作って好評だったって喜んでたっけ。


はちみつの甘さとバターのこってりした香りが鼻をくすぐり、美味しそうと思うのに食欲が湧かない。


「わ~キレイに焼けました!カッツーのお代わりにします」


ニコニコと嬉しそうな藤沢さんの笑顔が、まともに見られない。


ホテルから帰ってきた日。桂木さんは、何のつもりで私をあんな風にからかったんだろう?



無断欠勤が理由ではなかったみたいだけど。やっぱり勝手に休んだ腹立たしさから?


にしても、桂木さんには藤沢さんがいるのに。冗談にしても質が悪い。


(あのことを藤沢さんに知られる訳にはいかないな)


藤沢さんが本気で桂木さんのことが好きなのか、はまだ訊いてないけど。言葉の端々や表情や目で解る。彼女は紛れもなく桂木さんに惹かれている……って。


友達もろくにできなかった私を唯一慕ってくれた大切な後輩で、今や妹みたいな大事な存在。出来たら幸せになって欲しいから、桂木さんがこれ以上不穏な行動をしないように願うしかなかった。


(お願いだから……藤沢さんを大切にしてあげて)