「あ……あの……」
「……何?」
「ま、マンションに帰らなくてもいいんですか?」
マリアさんの事までは話せなくて、ただそれしか言えない。これでも思いきったのだけど、高宮さんは先に運ばれてきたグラスワインを手に取る。
「モスカート·ダスティ。甘口のデザートワインだから、飲みやすいだろう」
そう言って自分は赤いワインを口にする。
私は注文してないけど、たぶん高宮さんが頼んだんだ。えっと……イタリアワインだよね、これ。食前酒ってやつ。
グラスを通して見たワインは、淡い黄金色。何だかとっても綺麗。
高宮さんの見よう見まねでワインを口に含むと、マスカットのような香りとともにくせのない甘口が広がる。渋みもあまり感じない。
「……おいしい」
私がポツリと漏らすと、高宮さんは微かに唇の端を上げる。
ん? もしかすると笑った……の?
もともと多くを語らない人だけど、今日は特に無口だ。ブルーグレイの瞳が何かを伝えたがっているようにも見えるのだけど。同僚としての付き合いが浅い私には、到底読み取れない。
それでも、こうして向かい合って静かにワインを飲むというのも、悪くはないと思えた。



